境界線(19)

家族と関わると、何故か落ち込む、罪悪感をもってしまう、イライラしてしまう、不自由に感じる等々があれば、適切な境界線(以下バウンダリー)が引けていないのかもしれません。養育者との関係性も、おとなになると子どもの頃の関係性とは変わるものですが、意外にその関係性が変わっていない人もいるのではないでしょうか。

仕事や結婚で独立して暮らしていたとしても、家族との適切なバウンダリーが引けていないと、罪悪感をもつことなく自分の人生を自由に選択することができません。そのたびに苦しくなったり、落ち込んだり、体調が悪くなってしまうことにもなります。「誰か他の人の為に生きているのではなく、自分の為に生きている」ことは誰しもがわかっていることでありながら、それができていないと思っている人は多いのではないでしょうか。

 

表向きは自分で選択してきたようにみえても、結果として心の内に罪悪感・不自由が見え隠れしているのであれば、それは自分で選択したことにはなりません。

人生を左右するもの

心理学を学び始めた若い頃、これは養育者の側から見た例えですが「大学生でも三歳からの子育てのやり直しが必要」などと聞くと「もうおとなになっているのに、なんでそこから何故?」と疑問に思ったものでした。その後カウンセリングを学び、カウンセリングをする中で、その「何故?」が理解できました。

 

「あなたを一所懸命育てたのだから、もうおとなになったあなたにはどんなふうに育ったかなんて関係ない。自分の人生を自由に生きればいいだけ、今、ここから頑張ってみよう」などと言う人もいるかもしれませんが、そうではありません。三つ子の魂百までといわれるように、もって生まれた気質と幼少期の生育環境や養育者の教育は、その後の人生を大きく左右するほどのものです。

養育者が子どもと関わる時にたいせつなことは

・守ってくれる存在であるという安心感を子どもが持てる関わりを充分にしていること。

・子どもの気持ちに寄り添い、気持ちを汲んでくれる関わり方をしていること。

・考えを押し付けることなく、子どもが望んでいることは何かを聞くこと。

・年齢にふさわしくない体験をさせてしまわないように、子ども守ることを最優先していること。例えば、子どもに年相応ではない話を聞かせることがないように配慮することです。

家族とのバウンダリー

家族との間にバウンダリーを引くことが難しいのは、家族がこれまでの役割によって成り立ち、身につき慣れ親しんだやり方が今もそのまま続いていて、幼少期以降も変化させることが難しいからです。

仮に養育者には養育者の事情があったと、おとなになった今のあなたが理解したつもりになっていたとしても、あなたは苦しいままです。育ちの中で得たものの中には良いものもあるのかもしれませんが、それをあなたの長所として生かすことはできません。

必要なこと

あなたの心を束縛し、囚われたものから自分自身を開放して自由になることが何よりも先です。そうするには、特に幼い頃のあなたの心を置き去りにせず「幼少期やその後の人生で、あの日、あの時に感じた感情を言葉にすること」です。

あなたは「あの時に言えばよかった」と自分を責めるかもしれません。でもその時は言えなかったのです。

仕事の場面で、社会での人との交流で、家庭で、恋人との関係で、頑張っているのにうまくいかないといったことがあれば、幼少期のエピソードの中に心を束縛するものの種が潜んでいます。それがおとなになって根を張り、心が囚われてしまうのです。

「私の人生って何?」と思うような気持ちになることがないように、家族の中で自分の思うようにならないと不機嫌になる人、不機嫌になるかもしれないと思わせる人を気にかけることよりもたいせつなことは、あなたが家族との間に適切なバウンダリーを引くことです。

本来家族は、あなたの自立や選んだ生き方の妨げになるものではありません。あなたの「幸せを願う人たち」のはずです。あなたが家族との間に適切なバウンダリーを引くことは、あなたの人生をよりよいものにすることであり、あなたの家族とよい関係を築くものです。自分のことに力を注いでください。

「幼少期やその後の人生で、あの日、あの時に感じた置き去りにされたままの感情を言葉にすること」が、ひとりではむつかしいと思われる方は、カウンセリングをお勧めします。カウンセリングルーム「こころのまいはうす」でお待ちしています。

参考文献 「境界線」 ヘンリー・クラウド、ジョン・タウンゼント著

       「心の境界線」 ネドラ・グローバー・タワブ著

 

次回「境界線(20)」に続きます。