今回は、自分の内側の境界線(以下バウンダリー)についてのお話です。
相手との間に引くバウンダリーではなく、自分の内側に引くバウンダリーです。
イギリスの小説家ヴァージニア・ウルフは「時が人の顔つきを変えるように、習慣は人生の容相(様相)を次第に変えていく。そして本人はそのことに気づかない」と日記に記しています。
日々私たちは自分で小さな選択をしながら生活をしています。一日一日の生活の流れを人生とするなら、習慣となる日々のひとつひとつの選択の積み重ねはおろそかにはできないものです。
選択するのも、選択の責任をとるのも、その結果として変化していくことも自分しかできないことです。相手との関係にバウンダリーが必要なように、自分の内側に引くバウンダリーもなくてはならないものです。相手とのバウンダリー同様に、自分の内側にバウンダリーを引くことは難しいかもしれません。
自らの欲求に抗うことができずに、困った問題が起こる原因が自分自身にあることは多いものです。下記の問題は、どれも自分の内側にバウンダリーが引けていないことで起こります。 自分をたいせつにはできずに、心のどこかで無理を重ねています。
食事
食事の量をコントロールできずに健康を害するほどの過食をしてしまいます。
慢性的にせよ一時的にせよ、食べ物は仕事での過度なストレスや人間関係などから逃避するのに最も手っ取り早い方法です。自分に中身がないように感じる空虚感も、立ち止まって考えると現実が立ち行かないような焦りといったものも、食べることで一時的に解消されたように感じられます。気を紛らわせ、思考停止する役割を果たします。
金銭
収入を上回る支出をしてしまいます。
常に金銭的に余裕がない状態です。
自覚のない身の丈に合わない贅沢な暮らしは、お金の奴隷になりかねません。
収入は全部使ってしまわないといけないかのように、それほど欲しくないものも手に入れようとします。
キャッシュレス決済はお金が減っていく感覚を失わせ、使えるお金が手元にいくら残っているかが目に見える形でわからないので要注意です。
時間
時間を上手に使うことができず、いつも時間に追われるように生活しています。
時間の管理ができず、常に余裕がなくてイライラした状態に陥っています。一日一日の達成感が得られません。仕事などの時間に関しての甘い見通し、人からの頼みごとを後先考えずに引き受けてしまう、時間が守れないなど、それが人の信頼を失うことには気づけません。
またスマホやテレビやゲームなどから意識して物理的に離れる工夫をしないと、いくら時間があっても足りないくらい時間食いの元になります。
課題の達成
大なり小なり、やると決めて始めたことを最後までやり遂げずに終わってしまいます。
ほとんどのことに結果が出せないままです。
物事を始める時には勢いよくやろうと決心するのですが、物事を終わらせるまでの集中力がもちません。いざ集中しようとすると、そばにあるものに目移りして気が散ってしまいます。それは周りにあるおもちゃに次々と目移りして遊んでしまう子どもの頃のまま成長していないかのようです。
時間の使い方と同じく、人生に多くの無駄をつくってしまいます。とてももったいないことです。
言葉
自分に対しても相手に対しても、どんな言葉を遣っているかをほとんど意識していません。
「口は災いの元」「雄弁は銀、沈黙は金」「口は禍福の門なり」と、言葉を慎重に遣うことを示す教訓があるように、言葉を活かして遣うことは多くの人ができずにいることかもしれません。言葉をどのように遣うかは、人間関係の質に深くかかわります。
また人は常に「脳内会話」をしていて、最も多くの会話する相手は自分自身です。言葉が与える影響は、相手にだけではなく自分自身にもかなり大きいといえます。
性欲
性欲を自制できません。性依存です。
欲求に限度がないどころか、更に欲求は欲求を呼び、満たされることはありません。心のどこかに孤独感、絶望感、恥といったことを抱えていることがあります。特にプライベートなことなので相談しにくいでしょう。
アルコール・ギャンブル・薬物
依存症といわれている代表的なものです。
日常生活に支障をきたし、人生が破綻することもあり、果ては死も招きかねません。
意志の力で解決しない
自分の内側にバウンダリーをうまく引けずにいることで起こる問題は、「自制心がない」と厳しい言葉で自分を責めても一向に改善できません。本人にも周りにも意志の力でなんとか改善できることと思われていますが、実は自分ひとりでではできないことです。助けてくれる人とつながることが必要です。問題解決に向けて意志を強めるには、自制した行動しかできないような効果的な仕組みを人との関係の中で共同して作り、実行していくことでしか達成が難しいことなのです。
人との関係の中で
上記に挙げた問題の内、食欲・金銭・時間・課題の達成・言葉の問題は、カウンセラーと共に解決することができるかもしれませんが、性・薬物・アルコール・ギャンブルの問題は、これらの問題にしっかりと取り組んでいる精神科の病院やクリニックの助けが必要です。早急に受診されることをお勧めします。またこれらの問題で周りの人が少しでも困るようなことがあれば、自分たちで何とかしようと思わず、医療機関に繋げることを第一とされることをお勧めします。
参考文献 「境界線」 ヘンリー・クラウド、ジョン・タウンゼント著
「心の境界線」 ネドラ・グローバー・タワブ著
次月「境界線(19)」に続きます。