境界線(17)

適切な境界線(以下バウンダリー)を引くことをためらう時に、よくある思い込みについての8つのお話です。

今回は前月に続いて後半の4つをお話します。

怒りを表す?

5)バウンダリーは怒りを表すのではないか

バウンダリーを引き始めた時怒りの感情が湧くことがありますが、バウンダリーが怒りを抱かせるわけではありません。些細なことで感情を害し、神経質になったように感じます。また周りの人たちから「優しくて親切な人ではなくなった」と言われることがあるかもしれません。そういったことから動揺してしまいます。

怒りの感情はバウンダリーが侵害されたこと、例えば傷つけられたり支配されたりすることを教えてくれます。怒りはそのまま放っておくと時と共に無くなっていくものではなく、解消されず心の内側に残ったままになります。適切なバウンダリーを引いたことによって、過去のバウンダリーの侵害にも気づきます。バウンダリーを引き始めた時に怒りの感情が出てくることがあるのはその為です。バウンダリーの侵害という危険から心を守る方法を知らない時期に、バウンダリーを侵害され続けた過去をもつ人にとっては、怒りを感じることでしか心を守る方法がなかったのかもしれません。適切なバウンダリーを引いた今、自分と向き合って過去のバウンダリーの侵害を振り返り、怒りを清算する時が来たのです。

自分が傷つく?

6)相手がバウンダリーを引くと私が傷つくのではないか

自分が受け入れてほしいことに対して「ノー」と言われると、断られた、冷たい…などと相手のバウンダリーを疎ましく思うこともあるかもしれません。

他に助けを求める相手がない場合は尚更です。

自分にバウンダリーがあるように、相手にもバウンダリーがあります。お互いのバウンダリーを尊重することがたいせつなのにもかかわらず、相手のバウンダリーを受け入れることが難しいことがあります。

相手のバウンダリーを受け入れられないのにはいくつかの理由があります。

不適切なバウンダリー

一つ目は、不適切なバウンダリーを引かれた場合です。

自己中心的な親、未熟な親は適切な時に「ノー」と言うことができません。それゆえに不適切なバウンダリーが引かれ続けた結果、相手のバウンダリーがあなたを傷つけると思い込んでしまったパターンです。

また更に、親になった時には幼い子どもの要求をなんでも受け入れてしまうことがあります。受け入れないと子どもが悲しむと思うのです。それは自分が親に受け入れられなかった時の痛みの感情を子どもに映し出しているからです。子どもが悲しむから受け入れようとして、バウンダリーを引くことができません。愛ある関係には適切なバウンダリーが必要です。

依存と支配の関係

二つ目は相手に依存し、支配されている場合です。

どうしても「ノー」と言ってほしくない人がいる場合は、自分の人生の舵を相手に握らせていることになります。自分の考えを曲げてでも「ノー」という相手に合わせてしまうパターンです。

支配的な人は繰り返し相手を脅かします。そのたびに反省することはなかったかと振り返っては、更に相手に合わせようとします。結果は愛ある関係を築けません。

 

考えてみてください。『「ノー」と言ってほしくない相手が、今日いなくなってしまったとしたら、あなたはどうするだろうか』と。たったひとりの人に期待して、叶わないと絶望してしまうことは、あなたを不自由にし成長を止めてしまいます。あなたの心にとって危険なことです。愛ある関係には適切なバウンダリーがあります。

責任放棄

三つ目は、自分の責任を放棄している場合です。

例えば、お金に困っている時に貸してくれなかった相手のせいで、どん底の生活をしなくてはならなくなったと、自分に責任があることを相手に責任転嫁するパターンです。バウンダリーは責任の範囲を示します。

自分が適切なバウンダリーを引けていないと、自分がとる責任の範囲をきちんと認識できません。

良好な関係は互いのバウンダリーを尊重し合います。

罪悪感を生む?

7)バウンダリーが罪悪感を生み出すのではないか

例えば、人に何かをする時や人に何か贈り物をする時にあなたは見返りを求めますか?

人は何かをしてもらった時にお返ししたい気持ちになることがあります。その気持ちは形にしなくても、相手の暖かな心に感謝をすることです。相手にしてもらったことは借りをつくったのではありません。借りたものならば返さなくてはなりませんが、暖かな心のやりとりは貸し借りではありません。相手がしてくれたことの見返りに何かを要求するか、何も求めないかで相手の心がわかります。つまり貸し借りでしている人か、貸し借りでしていない人かがわかるのです。感謝は相手がすることで、求めるものではありません。

ところが例えば、ここまで育ててくれた親だからなどとの思いから、特に親子間では適切なバウンダリーを引けない人がいます。親との間にバウンダリーを引くことに罪悪感を覚えるからです。家族などの身近にある親しい間柄の人にこそ適切なバウンダリーが必要なこと、愛ある関係には適切なバウンダリーがあることを忘れないでください。

永続的?

8)バウンダリーは永続的で、相手とのつながりを切ってしまうのが怖い

バウンダリーは、あなたが引くもの、あなたが動かせるもの、あなたが引き直すことができるものです。一旦引いたバウンダリーはずっとそのまま動かせないものではありません。あなたがバウンダリーに振り回されることはありません。自由に自分で適切なバウンダリーを引きます。

あなたが適切なバウンダリーを示したことによって、相手があなたを理解してくれた時にはバウンダリーを動かすことができます。またあなたにとって相手と心地よい関係を築けそうなら、あらためてあなたの意思で引きなおすこともできます。バウンダリーは、相手とのつながりを切ってしまうものでも、相手とのつながりが切れてしまうものでもありません。相手との心地よい関係を築く為に必要なものです。

相手との間に「イエス」、「ノー」を示すのはあなたです。

相手との間にある心地よさがなくなった時が、バウンダリーの見直しが必要な時なのかもしれません。

参考文献 「境界線」 ヘンリー・クラウド、ジョン・タウンゼント著

      「心の境界線」 ネドラ・グローバー・タワブ著

次月、境界線(18に続きます。