「自分」と「相手」とを区別するものであれば「心の境界線」(以下バウンダリー)
になりますが、実際にどのような種類があるのでしょうか。
①尊厳の境界線
自分の存在そのものに価値があることを示します。
生存を脅かされることから身を守るバウンダリーです。
人の存在には、他と比較できない絶対的価値があります。
性別・生い立ち・国籍・出身地・年齢・職業・病気の有無・障碍の有無によって、
決めつけられることなく人は尊重され、傷つけることのできない尊厳は守られるはずのものです。
不快に感じる例は、
・「生れてこなければよかったのに」と言われる。
・「役に立たない」と言われる。
・「死ねばいいのに」と言われる。
・生命を脅かされるような脅しや命令をかけられる。
②感情的境界線
感情、感覚を示します。
自分の感情、感覚を相手からコントロールされること、脅かされることから身を守るバウンダリーです。
不快に感じる例は、
・自分の感情や感覚が軽んじられてしまう。
例えば、思いきって人に打ち明けた話を他の人に話されてしまう。
・感情を否定される。
例えば、肉親を亡くした時、かけられた言葉に思わず涙があふれたら「人前で泣くな」と言われる。
・「あなたの感覚はおかしい」と言われる。
特に子どもの時に感情を否定されると、どんなふうに反応したらいいのかわからなくなります。例えば、転んで痛くて泣いているのに養育者に無視される、「そんなの痛くないから泣かない」などと感情を否定され抑え込まれると、子どもは自分の感じていることがおかしいのだと誤解します。自分がどのように感じているかを表現することはたいせつです。それができないことが多い環境で幼少期を過ごすと、自分の感情がわからなくなります。それは大人になってからの人生にも大きな影響を与えることになります。
③身体的境界線
相手が近づいても不快に感じない距離、相手がどれだけ接近、接触してきてよいかを示します。
自分の体や私生活を安全に守るバウンダリーです。
不快に感じる例は、
・叩かれるなどの暴力を受ける。
・初対面でしたくもない握手を求められる。
・会話する時の距離が近くて不快に感じる。
・恋人に公衆の面前ではキスは嫌だと伝えているのにされてしまう。
・仕事で激務を強制される。
④思考・価値観の境界線
考え方、価値観、信念、アイデア、広くは心を示します。
「ありのままの自分」でいることを守るバウンダリーです。
不快に感じる例は、
・考え方を否定される、馬鹿にされる。
・自分が白だと思っているのに、黒だと思うことを強要される。
・宗教など信じているものを否定される。
・自分の作った作品を相手のアイデアで作り変えられてしまう。
・子どもが母親から父親の悪口を聞かされる。
養育者が子どもに適切な話題で、適切な伝え方をすることは大事なことで、
子どものバウンダリーを尊重することになります。
⑤性的境界線
誰といつ、どのような性的関係を持つのかを示します。
相手の道具にされ、利用されることなどから身を守るバウンダリーです。
相手との合意なしの性的行為は犯罪です。
不快に感じる例は、
・性的な意味を含んだ冗談を言われる。
・公共の乗り物の中などで、卑猥な内容の話を聞かされる。
・「男は泣くものではない。がまんしなさい」と言われる。
・性表現について嫌味を言われる。
例えば、「女性が何でそんな服装をしているのか。女は女らしい服装が似合うのに」などと言われることです。
子どもの場合は大人が守るしかないことが多いので、特に注意深く見守る必要があります。
⑥時間的境界線
自分が何に、誰とどのように時間を使うかを示します。
人生の限りがある時間の使い方を自分が決めるバウンダリーです。
不快に感じる例は、
・夜遅くに電話で延々と一方的に相手の話を聞かされる。
・急ぎの仕事でもないのに、残業してまで手伝わされる。
・こちらの都合も訊かずに頼み事をしてくる。
・忙しいと言っているのに、頻繁に誘われる。
⑦空間的境界線
プライベートな空間を示します。
安心して過ごせる空間を守るバウンダリーです。
不快に感じる例は、
・いきなり親が子ども部屋に入ってくる。
・深夜に大声で騒ぐ声が聞こえてくる。
・思春期になっても着替えや寝る時など、異性の兄弟姉妹に気を遣う環境で
過ごさなければならない。
⑧物と金銭の境界線
「自分の物」と「相手の物」の区別を示します。
「自分の物」を守るバウンダリーです。
不快に感じる例は、
・親に預けていた貯金を勝手に使われてしまう。
・兄弟姉妹に断りもなしに勝手に自分の服を着られてしまう。
・貸した物が返ってこない。
バウンダリーは「相手」によって、また「相手」とのその時の関係や状況によっても
変わるものですが、あなたが不快に感じるのはどのような時ですか?
あなたは「何を快いと感じ、何を不快と感じますか?」
自分へのこのシンプルな問いかけのシンプルな答えが、自分を知るスタートです。