コロナの時に⑲思考の癖

 

最近、はまっているマンガがあります。

Jamさんの『多分そいつ、今ごろパフェとか食ってるよ。』です。

 

人間関係で嫌なことがあって悩んでいたJamさんに友人が言ったことは「多分そいつ、今ごろパフェとか食ってるよ。」でした。

思わず「パフェかよ!」ってツッコミを入れて笑っちゃったけど、その瞬間、いろいろなことが頭の中を駆け巡って、パァァァって光が射すみたいにハッとしたそうです。ストンと腑に落ちて納得して、悩むのをやめちゃった。といいます。

書籍画像Amazonより出典

悩みから抜け出るとは

Jamさんのこの話は、悩みから抜け出る時の体験です。

人に話をして気持ちを受け止められ、違う視点を与えられ、笑えるような気持ちになって、無限にグルグルと抜けられないような悩みのサイクル、思考から抜け出すことができて、自分の心の中にある葛藤の落としどころをみつけられたということです。

日常でこのような体験ができて、更に自分の体験を心が疲れている身近な仲間に「私はこれで楽になったよ」と伝えたいとの思いでツイッターに載せたところ反響が大きくてマンガを描き続けることになったそうです。

Jamさんは、嫌な気持ちを引きずる悩みのグルグルから抜け出すコツをつかまれたようです。

人の思考には多少の癖があるものですが、強い癖があると捉え方が偏ります。悩みが多い人や悩みから抜け出しにくい人は、嫌な出来事を繰り返し思い出しては心にこびりつかせていきます。答えが出ないまま、無限にグルグルと同じところを行ったり来たりしているうちに思考が信念となり、より事実からかけ離れてしまって問題に対する現実対応が難しくなっていきます。そうするとどんどん悩みが悩みを呼んできて、うまくいかないと思い込んでしまいます。時には、うつ病を引き起こしてしまいます。

思考の癖とは

思考の癖とは、今までの人生で身に付けた価値観を元にした物事の捉え方です。思考の癖が強く偏っていることを「認知の歪み」として提唱したのが認知行動療法の先駆者であるデビッド・D・バーンズです。アメリカの精神科医アーロン・ベックが基礎を築き、弟子のデビッド・D・バーンズが提唱しました。

バーンズは、『私たちには現実に次々と良いこと、悪いことが起こっていて、その出来事を次々と自分の考え方で解釈している。(それを自動思考といいます) 感情は現実に起こっていること自体ではなく、それに対する解釈で決められる。体験したことはすべて脳の中で加工され、意味づけられることで感情がつくられる。』と言っています。

デビッド・D・バーンズ著『いやな気分よさようなら』より引用 

認知の歪みの種類

認知の歪みにはどのようなのがあるのでしょうか。

認知の歪み1.全か無かの思考

物事を極端に、白か黒かに分けて考えようとすることです。

例えば、少しでもミスをしたら、完全に失敗した価値のない人間だとまで思ってしまうことです。完璧主義的な考え方です。そのためミスすることを極端に恐れますし、はっきりさせないと気が済まないところがあります。世の中には完全無欠な人はいませんし、完全にいい人も完全に悪い人もいないので、非現実的な思考といえます。

認知の歪み2.一般化のしすぎ

一度起こったことを、それが何度も繰り返し起こるように感じてしまうことです。

例えば、思いきってデートに誘った人にたまたま都合が悪くて断られたような場合、「自分とはデートしたくないんだ。これから何度誘っても断られる。一生恋人はできないなどと思い込んでしまいます。拒絶を恐れる心理もこの思考から生まれます。

認知の歪み3.心のフィルター

良いことを見ずに、悪いことばかりを見てしまうことです。

例えば、友人と楽しく食事をして過ごしていたのに、レストランの人の接客が悪く嫌な思いをしたとすると、今日は最悪だったと考えてしまいます。日常的に良いことも悪いことも起こりますが、悪いことしか見えないために悪いことばかりだと思ってしまいます。

認知の歪み4.マイナス化思考

良い出来事をなかったことにしてしまうだけではなく、正反対の悪い出来事に置き換えてしまうという最も質の悪い思考です。

例えば、試験で90点とったとしましょう。高得点をとったとは思わず、何で100点がとれなかったのかと自分を責めてしまいます。90点なら誰にでもとれるなどと考え、よいことでも、よいことと認めようとしません。

認知の歪み5.結論の飛躍

事実と違った根拠のない悲観的な結論を一足飛びに出してしまうことです。二種類あります。

   心の読みすぎ

例えば、仕事で嫌なことがあった意気消沈な夫が、帰宅後気の入らない返答をしまし

た。それを妻が私のことで何か怒っているから機嫌が悪いのだと考え、妻の方も気まずく

なるような接し方をしてしまうといったものです。ひとり相撲をとって人との関係を悪くしてし

まいます。

   先読みの誤り

例えば、友人に電話したけれどたまたま出られなくて、留守電にメッセージを入れたのにかかってこなかったといった場合に、友人が自分を避けていると思い込んで、再度日を改めて電話をしようなどとは考えないといったものです。

認知の歪み6.拡大解釈と過小評価

「双眼鏡のトリック」と呼ばれる思考です。出来事を拡大解釈したり、縮小解釈したりすることです。長所を過小に評価し、短所を大袈裟に考えてしまうことです。

例えば、仕事のミスを大きくとらえて必要以上に落ち込みます。褒められた時は、誰でもこのくらいはできると過小評価します。他者がミスをした時には過小に評価し、褒められた時には羨ましく思います。

認知の歪み7.感情的決めつけ

自分の感情を真実であることを証明する証拠のように考えてしまうことです。

 

例えば、私はあなたに腹を立てている。こんな気持ちにさせるのはあなたが私を嫌っていて遠ざけようとしているからだというふうに、自分の憂鬱な感情は現実をリアルに反映していると考えます。

認知の歪み8.すべき思考

「~するべき」「~であるべきだ」といった必要以上にプレッシャーを与え、追い詰めてしまいます。やる気をなくす結果を招くこともあります。

例えば、母親なら子どもにきちんと食事をつくるべきなのに、今日は忙しくて手を抜いてしまった自分自身を許せないなどと考え、マイルールに縛られてしまいます。できないと罰を受けるように考えてしまいます。

またすべき思考を他者に向けた時は、習い事の先生が五分遅れてきたのが許せない。先生なら遅れるべきではないと考え、何故遅れてきたかを考えず欲求不満が溜まります。

 

すべき思考は、日常的に感情の混乱を引き起こします。自分の基準に合わないことが自分に向かうと自己嫌悪・罪・恥となり、他者に向かうと怒りになり独善的になる結果、現実に裏切られたように感じて、人の行動にがっかりさせられることが多くなります。

認知の歪み9.レッテル貼り

たった一度起きたことや人の一部分をみて、間違った認知によるネガティブな自己イメージや他者イメージをつくってしまうことです。「人の価値はその人がする間違いによって決まる」という考えが背景にあります。

例えば、ダイエット中にケーキを食べてしまった。私はダイエットのできない人間だと

やけ食いをするようになってしまい、いい結果につながらないことが多くなります。

 

また他者に頼んだことをたまたま断られた場合に、あの人は役立たずなどとレッテルを貼ります。

認知の歪み10.個人化

罪の意識の元になる思考です。よくなかった出来事を理由もなく自分のせいだと考えてしまうことです。

 

例えば、子どもの成績が悪かったのは母親である私のせいだと考えてしまいます。

このように、自己に向けている思考と他者に向けている思考とは同じような見方、捉え方になっていることが往々にしてあります。人生で起こる出来事によっても幸不幸はあると思いますが、その捉え方、解釈によっても幸不幸は左右されます。人生は自分次第という面もあると思います。

思考の癖の修正

認知の歪みの修正方法として、思考の全体を見直すことで視野を広くして多面的、多角的にみていくようにすることで、物事の受け止め方、出来事に対する解釈を変えていきます。具体的な方法として、バーンズのトリプルカラム表があります。

トリプルカラム表の記入例です。

(記入する際の注意点としては、自動思考の欄には、感情をもろに出す言葉は使わず、感情を生み出す元になった考えを書き出すようにしてください。)

自動思考

(自己批判的)

認知の歪み

のどれか

合理的な反応

 (自己擁護的)

皆、私がどんなにだらしなくてわがままかを知っている。

結論の飛躍

心の読みすぎ

一般化のしすぎ

私は時にはきれい好きのこともあるし、まただらしない時もある。皆が同じように私を見ているわけではない。

私は本当に自己中心的で、軽率だ。何もいいところがない。

全か無か思考

私は、軽率な時もあるし思慮深い時もある。時には過度に自己中心的に振る舞うこともあるだろう。私は完全無欠ではないが、いいところがひとつもないというわけではない。

ルームメイトはたぶん私を嫌っている。私には本当の友達がひとりもいない。

結論の飛躍

心の読みすぎ

一般化のしすぎ

私の友情は、他の人のと同じように本物だ。時には、ゲイルという人間そのものを拒絶するというような批判を受けるかもしれない。しかしそれは私のやったことへの嫌悪であって、私という人間自体は受け入れられている。

デビッド・D・バーンズ著『いやな気分よさようなら』より引用

朝日記の勧め

 

また自分の思考を知るひとつの方法として、朝に日記を書くことをお勧めします。夜に書くと、いろいろ考えるので眠りを妨げることもあります。前日の出来事を翌朝の朝に書くようにします。朝に時間がない人は、なるだけ早い時間に書いてみてください。

 

ノートの見開きの左のページ(1ページ目)に昨日の自分に起こったよかった出来事、右のページ(2ページ目)に昨日の自分に起こった嫌だと思った出来事を書きます。

それぞれの出来事に対して感じたこと、思ったこと、気がついたことを書いてください。箇条書きで充分です。

 

書くことによって、自分の思考の傾向を客観的に知ることができたり、日常の出来事を自分の心から少し距離をとってみることもできます。そうすると少し違った見方や考え方が出てくるかもしれません。

より良い人生を生きるためにできることはいろいろありますが、人にとって最も必要なのは、人に気持ちを受け止めてもらう経験です。それが生きていく上でのベースになると思います。誰かに話してみようと思われる時は、「こころのまいはうす」のカウンセリングをご活用ください。お待ちしています。